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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)57号 判決

控訴人(原告) 葉山敏夫

被控訴人(被告) 宇野亨

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  本件を東京地方裁判所に差戻す。

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張並びに証拠関係

当審における控訴人の主張として、次のとおり附加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

「控訴人の本訴における主張の骨組は次のとおりである。すなわち、控訴人は毎年多額の国税を納付している納税者である。納税者は単に義務を負担しているだけでなく憲法上納税者としての権利を有していると解するのが正当である。この納税者としての権利は、国庫金が違法不当に支出された場合には当然侵害を受けたこととなる。納税者の権利が侵害された場合には、その原状回復を求める請求権の生ずることも、権利の一般的性質から肯定されるべきである。本訴において、被控訴人に対する国庫金の違法不当な支出は、控訴人の納税者としての権利を侵害するものであるから、控訴人は国庫に対する原状回復請求権をもつて、国に代位し、国庫の被控訴人に対する不当利得返還請求権を行使するというものである。」

理由

一  当裁判所も控訴人の本件訴は不適法として却下すべきものと判断するのであるが、その理由は原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。なお、本件訴訟を、控訴人の個人的権利を保全するためのものである点に着目し、主観訴訟であるととらえるとしても、右被保全権利は控訴人の主張に従えば所詮金銭債権の域を出ないものであり、債務者である国に代位するのでなければこれを保全することができないとは到底解しえられないから、やはり控訴人の本件の訴は不適法といわざるをえないのである。

二  よつて、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、民訴法九五条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫 広木重喜 原島克己)

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